HiKaRu

第10号(File #10:1999.12.11発行)

◆ 〜潤くん〜 Vol.1 ◆

「実はね、HIKARUちゃん、あの翌日僕は風太郎くんに会ったんだよ」
「あの翌日・・・?、あの潤くんが最後にピアノを弾いた日の翌日ってこと?」
「うん。・・・・・このことはね、カリンも知らないことなんだ。HIKARUちゃんも知らなかったでしょう?」
「・・・・・うん。風太郎、そういう人のこと話さないから・・・」
「どうしても確かめたいことがあってね。・・・・・というよりどうしても一言彼に謝りたかったんだ」
「どういうこと、それ?」
「彼はカリンにとっては特別な人だったよね。僕はとても彼のことを気にしていたんだ。あの日も始めて彼に会うのが怖かったよ、僕にはカリンがすべてだったから・・・。彼の存在を気にしながらも、さやかが産まれて、僕達は結婚した・・・。こういう既成事実を僕は先に作ってカリンを独占しようとしたんだ・・・。このことを彼に謝りたくてね、あの翌日会いに行ったんだよ」
「そうなんだ・・・。それでどうなったの?」
「彼はね、カリンとはそんなんじゃあないって笑ってたんだけどね。朝まで飲んで色々と話すなかで彼の本当に強いカリンへの特別な想いがすごく伝わってきてさ・・・、身が引き締まるような緊張で全然酔えなかったよ。結局彼と一つだけ約束をして別れたんだ。彼とはあれ以来一度も会ってないけど、僕はその約束をずっと守ってきたんだ。・・・・・何があってもカリンのすべてを尊重するっていう・・・。もし彼がいなかったら、僕はもっと違う生き方をしてたと思うんだ・・・」
「そうかあ・・・、潤くんも風太郎に影響されてたんだあ・・・。カリンと潤くんの影響を受けたのは、風太郎だけなのかと思ってた・・・」
「彼がカリンや僕の影響を受けたって?ほんとなの?」
「・・・・・そうかあ・・・、そういう自覚もないんだあ」
「・・・・・」
「カリンと潤くんがいなかったら、風太郎も全然違ったと思うよ。でもここでHIKARUの考えなんて聞いても仕方ないしね、風太郎じゃあないけど、今度彼に会ったら直接本人から聞いてみて。・・・でも正直言うとね、HIKARUもカリンから風太郎を奪ったのかなんてずっと気にしてたんだ・・・。何だか似てるね、潤くんとHIKARU・・・。潤くんは知ってるよね?風太郎とHIKARUのはじまりのいきさつ・・・」
「うん、始めて二人に会ったあの夜に聞いたよ」
「風太郎もカリンもね、根本的にどうしても掴めないところがあって、それが人を不安にさせるんだよ。最近はもうね、奪うとかどうとか、誰のものとか何とか、そういうこと自体が根本的におかしいことって自分で思えるようになったから何でもないんだけどね、随分長い間苦しくて寂しい思いをしたかな・・・」
「・・・・・そうか・・・、僕は未だに不安なんだ・・・。カリンがこうしてずっと傍にいるのがかりそめな気がしてね・・・」
「・・・・・驚いた・・・。潤くんの言葉とは思えないよ。風太郎のことをまだ気にしてるの?」
「・・・・・気にしていないといえば嘘になるかな・・・。彼は約束を守る人だと思うから、僕も約束を守ってきたうちはよかったんだけど・・・、聞いたでしょう?僕は会社を辞めようと思ってるんだ」
「うん、さやかちゃんがこないだそんなこと言ってたけど・・・」
「何はともあれ、経済的な問題だけは何があってもクリアーしておこうという方向でこれまで来たし、僕なりに勝算の確信が持てることだけに携わってきたんだよ。でもね、まだ会社を辞めた後の具体的な設計が立たないんだ」
「またまたびっくり・・・、潤くんならどこでだって何だってうまくできるよ」
「そんなことはないさ。僕は苦手なことがほとんどで、うまくできることなんて本当に限られているんだから・・・」
「そうは思えないけど・・・、たとえ仮にもしそうだとして、会社に残るべきか辞めるべきかをHIKARUに相談してるの?もしかして・・・」
「・・・・・うん。他に話せる人なんていないし、HIKARUちゃんならどう思うのかなって・・・」
「・・・・・まいったね、これは。HIKARUは誰と話してるんだ・・・。潤くん、しっかりしてよ。いつもHIKARUの相談に乗ってくれてる頼もしい潤くんはどこに行っちゃったの!?」
「・・・・・」
「・・・・・潤くん、いつも潤くんがHIKARUに言うことだけど、HIKARUの意見を聞きたいならHIKARUの言うとおりにする?」
「・・・・・立場が完全に逆転しちゃったね・・・、しかしなかなかきつい選択だね、これは・・・。」
「よく言うわよ。いつも当然のことのようにHIKARUに言ってたくせに」
「そうだよね・・・、いくら考えても自分の結論がないんだからね・・・。おっしゃるとおりにしますから、HIKARUちゃんのご意見をお聞かせくださいませ」
「今の仕事がお金のためとか、本当に潤くんがやりたいことじゃあないなら、会社は辞めてしまうこと。これからどんな仕事をするかについては、潤くんが何をしたいのかということから考えること。ガキどもももう大人なんだし、それにカリンなら失敗したって代わりに稼いでくれるよ」
「・・・・・そんな簡単なことなのかなあ」
「簡単よ。特に今ならもう間違いなくね。潤くんを救えるのは潤くんだけなんだから、潤くんが自分も救えないのに、どうやってカリンやガキどもが救えるの!?もっと言っちゃえば、カリンはもちろんガキどもだって、潤くんに救いなんて求めてないと思うよ」
「・・・・・そうか・・・、そうかもね・・・。」

潤くん/Vol.2に続く


hikaru home