HiKaRu

第12号(File #12:1999.12.27発行)

◆ 〜さやか〜 Vol.1◆

アポイントなしのさやかの突然の来訪を知らせる受付からの内線電話でロビーに降りると、帽子から靴まで深い赤一色のコーディネートのさやかが後ろ手で足を前後にクロスさせた格好で窓からの逆光の中にしなやかに佇んでいた。

もう長くアパレルの業界にいるHIKARUですら、会う度にさやかのファッションセンスと可憐な美しさにははっとさせられるものがある。

さやかはカリン譲りの鋭敏な美しさと直感的な感性に加え、潤くん譲りの論理的で客観的な機知にも富み、何物にも臆さず伸び伸びと人生で最も輝いている今を謳歌している。
「さやかちゃん、お父さんのことで来たのかな?」
「はい。HIKARUおばさまなら何かご存知かもしれないと思って・・・。突然伺ってしまってすみません。カリンは連絡先も知らないって言うし、この会社にいらっしゃることしか判らなかったから・・・」
「いいのよ。私も連絡を取りたかったんだから。外でお茶でもしよっか、お天気もいいし」

道すがら黙ったままうつむき加減のさやかの横顔は、HIKARUがこがれた出会った頃のカリンの面影をも漂わせていた。

「このお店でね、お父さんに会う時はいつも待ち合わせをするのよ」
「そうなんですか・・・。気持ちいいお店ですね。中庭のテラスだから陽もあったかだし、風も来ないのね」
「ここのブラウニー、美味しいのよ。エスプレッソによく合うの。それでいいかな?」
「はい」

「・・・・・」
「潤くんね、どこにいるのかも判らないし、連絡もないんです。いないのは今に始まったことじゃないけど、どこで何をしているのか判らなくなってもうそろそろ四ヶ月、家ではね、私だけが心配しているの。カリンはいつもの調子だし、はるかはいじめで登校拒否してて自分のことで精一杯、カリムはバンド狂い・・・。HIKARUおばさま、何かご存じありません?」
「お父さんね、先月の始めまでは二ヶ月くらい、私の実家にいたのよ」
「ええっ?それで今はどこにいるんですか?」
「ごめんね。それは私にも判らないの・・・。でもお父さんは大丈夫よ、心配しなくていいよ」
HIKARUは、一連の経緯を順を追ってさやかに説明した。さやかは一言も発せず神妙にうなずきながらHIKARUの話を聞いていたが、話が進むにつれてだんだんと普段の明るさを取り戻していった。

「そんなことしてたんだ、潤くん・・・。HIKARUおばさまのお話で何だかとっても安心しちゃいました」
「そう、良かった・・・。そのうちに帰ってくるか、連絡があると思うよ。それよりみんなの生活は大丈夫なの?」
「それは全然心配ないんです。もともと家はね、全員が独立採算性で年間の予算が決まっているし、毎年初めに予算の全額が配分されているんです」
「・・・・・どういうこと?」
「あのね、毎年年末に次の一年で自分が必要な予算の総額を各自で決めて潤くんに申告して、年明けにまとめて各自の口座に入れてもらうんです。そこから各自が自分の支払いのすべてを各自の家計簿で管理するわけなんです。おまけにね、私達が産まれて以来十歳になって自分達で予算管理を始めるまでのすべての支払いは潤くんがきちんとつけてあって、これから親のすねをかじっている間にかかる全額をいずれ返済するということになっているわけなんです。無利子無期限で生きているうちにということなんですけど・・・。申告しただけくれるんですけど、みんな自然にすごく節約してて、潤くんの思うつぼなんです」
「そうなの・・・、お父さんらしいと言うか何と言うか・・・、でもとってもすばらしいやり方だと思うわ」

「HIKARUおばさま、お仕事中に突然すみませんでした。でもお話できてよかった。おかげで気持ちがすっきり晴れました。お時間大丈夫なんですか?」
「実はね、お父さんがらみで長引くと思って、今日はもう切り上げてきちゃったの。さやかちゃんはこれからどうするの?」
「別にこれといって予定はありません」
「それじゃあ、久しぶりにデートしよっか?」
「嬉しい!」
「さやかちゃん、これからどうしたい?」
「そうだなあ・・・」
嬉しそうに瞳を輝かせてあれこれ想いをめぐらせるさやかの美しい表情に、HIKARUは自然に見とれてしまっていた。

さやか/Vol.2につづく


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