HiKaRu

第14号(File #14:2000.01.21発行)

◆ 〜なおこさん〜 Vol.1◆

人は誰もが心から愛せる人を探し求めているし、人に心から愛されたいという生来的欲求に支配されている。それでも多くの人は本当の愛をなかなか手に入れることができずにいて、愛なんて要らないとか愛なんて本当は存在しないなどとうそぶいてみたり、仕事や創作や金銭などといった別物にすりかえてしまっていたり、自らの甘えや依存や利己心といったものを愛だと信じ込んでしまっていたりする。日々の努力だけでもままならず、運も必要なうえ、たとえ一旦手に入れられたとしても少しずつでも育んでいかない限りはいつの間にか消え失せてしまう。愛とはそんなとてもはかなく壊れやすいものだけれど、本当の意味で人が幸せになるための唯一かけがえのないものであり、大切に育むことでまずは自分自身のそして愛する相手の人間性を高めることにもつながっていく。

HIKARUはカリンとの出会いで、始めて自分の中の自然な愛というものの一端に触れたように思う。それまでのHIKARUは、両親に護られて何一つ不自由のない生活をしてきたし、学校の成績も常に上位の一割には入ってもいたし、容姿にも相当な自信を持っていて、いつも関わるすべての人の輪の中での中心的存在だった。誰もがHIKARUを特別な存在として扱ったし、欲しいものは何でも手に入れてきた。思考も感覚も周りの人達とは異なる次元にあって、自分が選ばれた特別な人間であることを疑わなかったし、自分の人生に不可能なことなど皆無であると信じていた。カリンは、そんなHIKARUに不安というような苛立ちともいうようなままならずやるせない感情を抱かせた最初の人物だったが、カリンが同性であったこともあって、HIKARUは初めての愛との出会いに長く気付かないでいた。

それまでのHIKARUにとっての愛とは、愛される愛でしかなかった。愛することで愛されることも認識できて始めて愛を見つけられること、まず自分自身を愛せないと人も愛せないということを、HIKARUはカリンや風太郎との出会いをきっかけにして徐々に知ることになる。

ある時風太郎は言った。
「その人を自分が好きか嫌いか、好きな人にはその人が喜ぶことを何でもしてあげたいと思うだろう。必要なら自分が我慢もできるし、時には犠牲になることだってできる。一番好きな人の為なら死だって厭わない。嫌いな人には近付かない。ただそれだけの簡単なことなんだよ」
そして実際彼は、その言葉のとおりに行動していた。ある時こうも言った。
「よく間違うことなんだけど、その人を好きか嫌いかなんてことはね、始めて会ったその瞬間に直感的に感じることだよね。その人がどんな人だからとか、自分に何をどうしたから好きになったとかやっぱり嫌いとかさ、そういうのはもう入り口が違ってしまっているんだよ。好きか嫌いかはただ感じるだけでいいんだ。何かの条件で判断しようとしたり、その人とよく知り合ってから好きか嫌いか決めようなんてした瞬間に、もうそれは愛ではなくなってしまうんだ。たとえその人に自分が愛されなかったとしても、遠く離れてずっと会えなかったとしても、その人が別の人と結婚していたとしてもだよ、極論その人が死んでしまったとしてもね、好きだと思う気持ち自体は本当は変わらないよね。愛とは相反する別の感情が邪魔することはあってもね。それにね、好きな人は一人だけであるはずもないんだよ。誰か一人好きな人がいたら、もう他の人を好きにならないことの方がずっとおかしいと思うよ」
風太郎は深く変わらずHIKARUを愛し続けていたにもかかわらず、彼と出会った頃のHIKARUはそんな彼の愛の形をなかなか理解することもできなかったし、感情的にはつい最近になるまで許容することができなかった。

突然のなおこさんの出現は、風太郎を独占できないことでHIKARUを大きく動揺させ深く傷付けた。その時初めて味わった嫉妬心や大きな屈辱感の反動をきっかけの一つとして、それからのHIKARUはいくつもの恋の遍歴を重ねていくことになるのだが、HIKARUと同時にそして同様に傷付いたはずのなおこさんは、それ以降も風太郎一人を愛し続けるというHIKARUとは正反対の道を択んだ。

人の数だけ愛の形もあり、様々な多くの人達のそれぞれの愛の形とHIKARUの屈折した愛とのこれまでの葛藤の中から、またカリンや潤くん、風太郎と彼の女達、HIKARUの家族、この物語にこれから登場してくる様々な人達のそれぞれの愛の形を見守る中からHIKARUは多くを学んだが、なおこさんの静かながらも圧倒的な存在と彼女の確固たる愛の在り様は、長い時間をかけてゆっくりとHIKARUを根底から打ち崩し、HIKARUの最も奥深い場所で眠っていたHIKARU自身を揺り起こしてくれた。それは、HIKARU自身を探し求める長い旅という遥かな遠回りをせねばならなかったことの必然性が理解でき、旅の過程で出会い傷付け合いそして別れたすべての人達への心からの愛を強く感じられる、そしてこれまでのすべての経験についての認識の再構築と必要なだけの精算をしたうえでHIKARUなりの本当の愛の形を探して新たに旅立とうとする、HIKARUが心から愛せるHIKARU自身との再会へとつながっていった。

なおこさん/Vol.2に続く


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