HiKaRu

第15号(File #15:2000.02.13発行)

◆ 〜なおこさん〜 Vol.2◆

なおこさんにHIKARUが初めて会ったのは、久しぶりに風太郎から連絡があって一緒に食事をしないかと誘われた夜のことだった。ちょっと紹介しておきたい人もいるからとのことだったが、そうしたことはそれまでにも折々にあったことで、HIKARUは風太郎に紹介された様々な人達と、ある時は風太郎を通して、またある時は直接にも交流を持っていたし、そのうちの多くの人達との交流は現在にもつながってきている。そんなまた新たな個性的な人物との出会いにも期待しながら待ち合わせのレストランに出かけていくと、すでに風太郎となおこさんがHIKARUを待っていた。

エントランスからテーブルに向かうHIKARUの目に映ったのは、まったく思いもかけなかった何か特別に親密な雰囲気に包まれ肩を寄せ合い微笑み合うなおこさんと風太郎で、その瞬間それまでに味わったことのない不愉快な苛立つような感情が突然沸き起り、HIKARUは怒りにも似たその感情に気分が悪くなりそうになる自らを懸命に抑えねばならなかった。・・・・・嫉妬だった・・・。

嫉妬・・・、それは自分にないものを持つ対象に抱く屈服の感情だから、それまでのHIKARUにはまったく無縁なものだったし、もちろんその存在はそれをHIKARUが与えてきた他人事としては知っていても、自分に沸き起ったその感情が嫉妬だと気付き愕然とするのに、HIKARUはその日随分と時間を要してしまった。

風太郎からの電話の後、会う度に風太郎の目を丸くさせるのを大きな楽しみにしていたHIKARUは、サウナできっちりと身体を絞り、その日おろしたての特別なランジェリーを着け、足の爪先までも寸分の隙もないパーフェクトなメイク、また密かに用意しておいたまた特別なコスチュームに新たな魅惑の香りを身に纏い出かけた。にもかかわらずそんなHIKARUを待っていたのは、それまでのどんな場面においても当然にHIKARUが存在したはずの風太郎に寄り添って座る空間に自然に存在しているなおこさん、四人がけのテーブルで二人の向かい側に座らざるをえないその異常な状況で、HIKARUの頭の中は完全に混乱をきたしてしまっていた。。

その夜のそれからのことは、HIKARUもあまりよく覚えていない。二人と平静を装いながら様々な会話をするも、頭の中ではまずはHIKARUが置かれている状況を把握しようとあれこれ考えを巡らせ、カリンと風太郎の間にまさにこうしてなおこさんのようにHIKARUも割り込んだのだろうか、HIKARUとはまったく異なる種類の風太郎がいなければ決して交わるはずのないこの女をどう風太郎とHIKARUの前から抹殺するか、あるいは今日で風太郎とHIKARUの関係も終わりなのかとか、実際の言動と頭の中ははちくはぐばらばらで、その夜は初めて目に映るものすべてがぐるぐると回って見えるほど酔ってしまい、人目などまったく気にせず風太郎にしなだりかかり、HIKARUという風太郎の絶対的存在をなおこさんに対抗して主張もした。

なおこさんも、そんなHIKARUの突然の出現に、冷静さを忘れて対抗心を燃やしていたのだろうか、露骨にHIKARUと風太郎を奪い合い、HIKARUの反対側から風太郎にしなだれかかっていたが、HIKARUよりも先にひどく悪酔いをしてしまったらしく、パウダールームにこもったまままったく出てこなかった。

そうなるとHIKARUのそれまでの酔いが嘘のように急激に覚めてきたが、HIKARUはもちろんのことなおこさんにも動揺を与え傷つけた風太郎に対する怒りの感情、依然と渦巻く嫉妬心やなおこさんとの競争心など、様々な感情が渦巻き混乱する自らをコントロールできないままでいた。しかし、そうした感情をそこで風太郎にぶつけることは、HIKARUの自尊心が最後まで許さなかった。

パウダールームからなおこさんを連れ出し、風太郎に彼女を送らせ、HIKARUは一人でアパートに戻った。それまでよりひどくがらんとして広く感じる部屋の中央にへたりこむと、HIKARUは堰を切ったようにその夜に蓄積した感情のすべてを吐き出し、生まれて初めて思いきり声をあげて泣き続けた。

なおこさん/Vol.3に続く


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