HiKaRu

第24号(File #24:2002.06.03発行)

◆ 〜HIKARU自身〜 Vol.5◆

「私、HIKARU・・・」
「おう、久しぶり・・・、元気になったか?あれっきりだったしな。さすがにそろそろ連絡してみようかと思ってたところだよ」
「会えるかな・・・???」
「もちろん・・・、今夜でもいいけど・・・。家に来る?」
「ううん・・・、いろいろ見てもらいたいものもあるから私の部屋にきてくれるかな」
「いいよ、20:00くらいになると思うけど・・・」
「わかった。じゃあ待ってるね」

 

HIKARUは、転々と勤務先を変えたりフリーランスとして活動をしたりしながらも、ずっとこれまでアパレル業界に身を置いてきたが、流産後仕事に復帰して初めて新たな業界に転身をした。それはタラソテラピーの業界で、イスラエルから死海の塩を輸入して主として入浴剤として卸している小さな会社に就職をしたことがきっかけだった。そこは、会社といってもまだ従業員が社長以下HIKARUを含めて4人のみの設立間もなく、実質上社長の個人事務所に限りなく近い、会社としての体も成していないような零細企業だった。

その会社の社長は、もともとエステティックサロンを長年経営してきて、いくつかの店舗を展開している小規模なチェーンのオーナーだったが、サロン経営の傍ら大学でタラソテラピー関連の講義もしている、業界ではどちらかというとその分野で名が知られている女性であった。

彼女のこれまで多方面に拡げすぎてしまったトータルエステティックサロンとしての方向性から、今後はタラソテラピーに特化していきたいというダウンサイジング的な転換発想は、当初はやはりこれまでどおりのアパレル業界の相応な会社へ就職するまでのつなぎ程度の意識でしかいなかったHIKARUを、期せずしてどんどん深く傾倒させていくことになった。

タラソテラピー、たまたま人生の転換期を迎えていたHIKARUにとっては、海と人とのつながりを通してまずは自分自身を、そしてすべてのものの存在意義を、さらにまた相互の関連性を考察していくよいきっかけとなった。

実務の上では、これまでもプレスという広告宣伝部門の経験が深かったから、扱う商品が衣料品から入浴剤に変わっただけのことで、何らの戸惑いも感じることはなかった。

また、入社以前から面識のあった社長に直接請われて入社をした経緯もあって、入社早々HIKARUは、商品の輸入元であるイスラエルはもちろんのこと、タラソ先進国であるドイツやフランス、さらにイギリスやイタリア、ひいてはギリシャやトルコにまで出張ペースの留学の機会にも恵まれ、また一定期間在籍するうちに、その会社のスポンサー企業の存在と致命的な確執、この業界の経緯と現状および将来への展望といった様々な実情も認識できるようになり、HIKARU自身今後の自らの人生をかけて取り組んでいこうとするだけの中長期的プランが日々固まってきたのだった。

そのプランを成功に導くために風太郎に協力してほしいと願った、それがHIKARUが風太郎に電話をした理由だった。

 

約束の時間どおりに風太郎は、HIKARUの部屋にやってきた。上着を無造作に背もたれにかけ、ソファーに腰を下ろしながら溜息まじりに風太郎が言った。
「さてと、今度はどんな頼み事なんだ?」
「何よそれ・・・、来る早々いきなり・・・」
「HIKARUが俺に連絡してくる時は、いつも何か厄介事を頼みたい時だけだろ・・・」
「・・・・・、まあそれは・・・、確かに否定はできないけど・・・」
「何だよ、今度は・・・。言ってみろよ」
「・・・・・実はね、風太郎に私が今やっている仕事を手伝ってほしいのよ」
「仕事かよ・・・、おまえと仕事をするのはもうこりごりだよ、それだけは勘弁してくれえ」
「何よう、話の中身も聞かないうちに・・・」
「仕事の内容は関係ないさ。仕事でおまえと関わること自体がもうごめんだってことだよ。今までの自分の行いを忘れたのかよ。それでまたよくそういうことが言えるよな・・・」

確かにこれまでの行いを追及されてしまうと、HIKARUも返す言葉もない。何度も放り出したり裏切ったりと、ずっと風太郎に迷惑のかけどおしであったことは紛れもない事実であったからだ。

それでもHIKARUは風太郎に強要をして、HIKARUの事業計画への協力を了承させてしまった。結局のところHIKARUの言動への関与に関しては、風太郎に選択の余地などありはしないのである。

 

HIKARU自身/Vol.6に続く


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