HiKaRu

第26号(File #26:2003.06.30発行)

◆ 〜HIKARU自身〜 Vol.7◆

当初HIKARUは、風太郎あるいは彼の会社も契約に加わるものとの認識でいたのであるが、風太郎のビジネスサポートスタイルはいわゆるHIKARUの私設秘書的なそれであって、風太郎の報酬はHIKARU個人としてのそれの20%という取り決めをしたうえで、結局彼は一切表に出ることはなく、後にも先にもHIKARU以外誰も彼の実質的な存在を知る者はなかった。

まず最初にHIKARUは、帰属する会社だけでなく提携先や取り引き先にかかわらず関係している全社の業務内容や財務状況および人的構図、取り扱い商品の詳細や扱い先と契約条件、これまでの実務の経緯と現状、進行中あるいは検討中の案件の詳細などについての徹底的なヒアリングを、一週間毎日数時間にわたって風太郎にされることになった。

昼間通常どおりの仕事を終えてからの深夜にも及ぶそれは、体力的に厳しいものではあったが、風太郎の意向に沿って説明しきれない事柄については調べ直したり新たに調査したりすることによって、自らの仕事を多角的客観的に再認識できたことは思いがけない目からうろこが落ちるような収穫であったし、何より久しぶりに情熱を傾けられる日々を取り戻すことができた精神的充実感が、HIKARUに日々の疲れを忘れさせてくれた。

それからHIKARUは、風太郎の助言を得ながら自らを基軸にした戦略策定に入っていった。いわゆる事業予算計画書づくりなのであるが、それまで事前に計画を立てて仕事をするという経験のなかったHIKARUにとっては、これが思いのほか実に困難を極める作業となった。

日々刻々と会社の実務は流れていき状況は変化していくうえに、HIKARUの視点では様々なビジネスチャンスが目の前に転がっているように見えたりもし、また何よりそうした面倒な論理立てをするよりも直感的に迅速な行動に移りたいHIKARUに対して、風太郎は実に厳しく釘を刺し一歩も譲ることはなかったが、HIKARUの実効的な事業予算計画がなかなかまとまらない間にも、日々の大局に影響しない範囲での風太郎とHIKARUのチームワークは急速に進展していった。

社内外にわたるHIKARUが作成するすべての文書は、すべて風太郎の検閲を受けることで、実務上の効率化と的確さは目を見張るほど向上し、さらに提携先や取引先との契約条件も有利に更新することができ、HIKARUの社内外での信頼や立場も日々高まっていった。

そうこうしているうちに、HIKARUの気分もようやく自らの身の置き場と方向性を得て高揚していたこともあったのだろうか、近付いてきたHIKARUの誕生日を兼ねた実質的にはビジネスシーンへのデビューのためのMy Thanks Giving Partyを開こうという計画が、風太郎とHIKARUどちららからともなく持ち上がった。

それまでHIKARUは、仕事に対して常に主体的かつ積極的に取り組んではきていたものの、いつもそれらは自らの一時的な仮の姿といったようなどこか傍観者的スタンスから脱却しきれず、心から納得できる身の置き場所を捜し求めてきたのだった。しかし、今回はHIKARUの直感的な心の声が、この仕事こそがHIKARUが探し求めてきたそれであることを訴えていた。

これまでの友人や仕事上の人脈としての知人に対して、HIKARUがいよいよ本気で仕事を始める宣言のようなけじめをつけたいといった欲望がふつふつと沸き起こってきていたのであるが、いざ彼ら全員が集まってくれた場合のパーティーの進行を想定してみると、展開がまったく想像できない状況にぶつかってしまった。風太郎にその不安を伝えると、彼の成り行き任せの何でもありで問題なしとのお気楽な反応が返ってきて、そう思えばそうかと後はどんどん実行に移してしまったのだった。

会場は、料理も手の込んだ和食ベースのしっかりとしたメニューも揃っているHIKARUお気に入りの行き付けのバーに決めた。マスターは昔のHIKARUの男の一人でもあり、趣旨を話したところ貸切りフリードリンク&フードで一人あたり\5,000の大判振る舞いを約束してくれた。

もともと利益を出そうという発想は皆無だったので、\5,000プラスカンパの完全会費制とするも、思い切ったフードメニューと個々のリクエストに応じたドリンクベースの構成として、結局結果的には\500,000近くの持ち出しという収支になってしまった。

フライヤーを送った200名のうちほとんどすべての人達が集まってくれた。HIKARUの遍歴を辿るかのような数々の男達、中にはHIKARUを巡って乱闘騒ぎを起こした男同志も同席し、転職を続けたそれぞれと現在の会社のトップや取引先の気の置けない人達、学生時代からの友人や遊び呑み友達、そして家族や親戚まで、まさに公私の隔てなくHIKARUが好きという基準だけで招待した人達ばかりでスタンディングになってしまう賑わいであったものの、プログラムは、パーティーの趣旨を説明し、過去や日常のしがらみを今夜は忘れて隣の人と自由に楽しくやってほしいというHIKARUのものの数分の挨拶のみ、また風太郎がノートPCを持ち込んで出欠と会費の徴収を管理してくれたこともあって実にスマートにトラブルもなくパーティーは進み、会費のみの各自負担で気遣い不要を謳ってはいても、バスルームが埋もれてしまいそうなボリュームの花束や部屋のコーナーに高く積まれるほど数多くのプレゼントを貰って、まさにHIKARUは至福の時を過ごすことができたのだった。

それでもみっちゃんだけは、招待者のリストから除外してしまっていた。

HIKARU自身/Vol.8に続く


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