HiKaRu

第3号(File #3:1999.11.01発行)

◆ 〜風太郎〜 Vol.3 ◆

ベッドのHIKARUの足もとで横向きで壁にもたれて座ったまま、風太郎はずっと眠らずにいたようだ。まだ半分ほど残っていたはずのバーボンのボトルとグラスがわりのマグカップが空になって彼の脇にころがって、その横の吸い殻でいっぱいになった大きな灰皿からは、灰が白いシーツにこぼれてしまっていた。

優しい温もりを感じて眠りについたはずの彼の存在がいつの間にか消えたことで目を覚ましたHIKARUは、夜明け前の窓からの微かな青白い光の帯の中を柔らかに幾重にも織り重なって漂う煙草の煙をぼんやりと眺めていた。

彼はつぶれた青い煙草のパッケージからひしゃけて曲がってしまった最後の一本をとりだし火をつけた。ライターを閉じる乾いた金属音が夜明け前の静寂に大きく響き、オイルと新たな香ばしく甘い煙草の香りが部屋全体に漂い、眠っていた幾重もの煙の層を大きく静かにくゆらせゆりおこした。

「ねえっ・・・、もしHIKARUのことを気遣ってくれてるんだったらもう何も気にしないでほしいな・・・」
「・・・・・」
「突然おしかけて強引にあなたを奪ったのは私なのよ。あなたといずれこうなることは自然のなりゆきだろうし、順番が違っただけだよ。あなたがHIKARUのこと嫌じゃなければそれでいいの。嫌なら昨日からのことなかったことにしてもいいよ」
「・・・・・、そんなわけにはいかないさ」
「でも・・・、もう私のこと好きになっちゃったんでしょう」
「うん。好きだったよもちろん、おとといから・・・、いや気にはなってた、とても、ずっと前から・・・。いろんなことを思い出してたんだ・・・。しかし驚いたな、想像もしなかったよ、こんなこと。むしろ僕とかかわることはない人かと感じてたくらいさ、HIKARUのことは」
「HIKARUもよ、おとといまでは・・・。でも感じちゃったのよね、インスピレーション。これからゆっくり時間をかけて知り合いましょう」

こうしてある日唐突に風太郎とHIKARUの関係は始まった。そしてこのHIKARUがHIKARU自身を探し求める長い旅の物語もここから始まる。

カリン/Vol.1に続く


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