HiKaRu

第5号(File #5:1999.11.10発行)

◆ 〜カリン〜 Vol.2 ◆

次にHIKARUがカリンに会ったのは、それから半月ほどが過ぎた秋も深まりもう冬の気配すら感じる寒い朝だった。

講義がもう終盤にさしかかる頃、視聴覚教室の後ろのドアーから厚手のオーバーに首までくるまれ手袋までした真冬のいでたちのカリンがそっと入ってきて、いつもの最後列の端の席に静かに座った。

どの講義のどの教室でも最後列の端の席は、暗黙のうちにカリンのためにいつも空けられていて、周辺の後方に風太郎やHIKARUを含めたどのグループにも属さない学生達がまばらに座り、前方のほぼ同じ一角にはそれぞれ小さな群れをなした学生達がかたまって陣取るというのがいつしかできあがった習慣だった。

HIKARUと視線が合ったカリンは、唇の左端をわずかにあげて微かに微笑んだだけだったし、隣にすわっていた風太郎は、相変わらずカリンを目にとめても何らの反応も示さなかったから、HIKARUもそれまでどおりの他人を決め込んだ。前方では久しぶりに姿を見せたカリンに目敏く気付いたそれぞれのグループの学生たちが、それぞれの仲間の間で短く耳打ちをし合っていた。

そのいでたちのまま教材やノートも出さずただうつむいて座っていたカリンは、講義が終わるとすぐにその日が提出日だった制作課題のポートフォリオケースを教壇に置いてそのまま姿を消してしまい、それ以来またカリンはまったく大学に現れなかった。

風太郎はカリンのことは本人からとHIKARUにほとんど何も語らず、「以前何度か電話をしてみたけど、時々母親が出るだけで家にいたためしがない」とことわりながらカリンの電話番号を教えてくれただけだったし、月に一度カリンにも一人で会いに出かけていた。

実際HIKARUも何度か電話をしてみたが誰も出なかったし、アルバイト先の洋書店を訪ねてもみたが、カリンはもう辞めてしまった後だった。

風太郎に連絡をくれるようにカリンに伝えてもらっていたし、HIKARUも風太郎のアパートで生活していたから、自宅に新規に電話を引き、転送電話システムの設置までもしていたが、カリンからの連絡はなかった。

そうして日々が過ぎ、ようやくHIKARUが次にカリンに会えたのは、もう12月に 入ってからのことだった。

カリン/Vol.3に続く


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